23歳、人生で初めてのデートをした時の話。

命と引き換えに金を欲しがるのは強盗であるが、女はその両方とも欲しがる。

サミュエル・バトラー

 

…………

 

 

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以前、生まれて初めて女の子と連絡先を交換したという話を書いた。

そのあと、女の子から誘われて食事に行ったという話だ。

 

↑ ①


↑ ②

 

それが人生の初デートだった。

さて、その一軒目の居酒屋に行った後の話……

 

食事も終わり、1時間程度で店を出た。時計は8時くらいを回っていた。

まあ当然、2軒目に行こうという流れになる。

 

俺が近くに住んでいるとはいえ、普段ずっと家で寝て過ごしているので、次の店など見当がつくはずがない。

隣で女の子のHカップの胸が揺れる。

 

「あ、ダーツバーがありますよ。あそこに入りませんか?」

 

そこに決定。

 

ダーツバーなんて初めて入るので、店にダーツが置いてあるのも物珍しく感じる。

適当に酒(甘い。苦い酒は飲めないので)を頼み、店員に言ってダーツで遊ばせてもらう。

 

「じゃあ。彼女さんはこっちね」

 

店員には男女のペアというだけでカップルに見えるのだろう。

俺も悪い気はしないので、気持ち悪い顔でニヤニヤと笑っていた。

女の子の表情はわからない(俺は女の子の顔すら見るのが恥ずかしいので)。


開始。

 

 

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負けた。

しかも2戦2敗である。

 


「結構簡単ですね~」

「あ、ああ……」


昔から勝負事は苦手なのだ。

 

 

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その後はちびちびと酒を飲みながら「ダーツバーって初めて入るから興味深いナァ」、みたいな話をした(話題の引き出しがないので話が面白くない)。

いま思えばもうこの時点で、すでに俺は終わっていたんだ。

 

俺が甘い酒を飲みながらフライドポテトを無心につまんでいると、女の子がスマホを弄りだした。Hカップの胸を見る俺。

 

しばらくして女の子は顔を上げ、切り出してくる。

 

「あの、知り合いを呼んでいいですか?」

「あっ……うん」

「男の子なんですけど」

「!?」

「ダメですか?」

「いや……いいよ」

「やった~!じゃあ連絡しますね!」


数十分後、店のドアが開く音。


「っちゃ~っス」
「あっ♪ こっちこっち!」


自然な動作で女の子の隣に座る男。

20代前半くらい……体育会系の、筋肉ムキムキのオラオラ系な雰囲気の男だ。

そして、顔が整っていた。


「あの…、どちら様ですか?」

「えっと……(ここで男と目を合わせる)……元カレです♪」

「!?」

「まあ、そんな感じっすね。よろしくお願いしまっす!」

「……ぁっす」

 

なるほどね。

そういうのもアリなのか。

 

とりあえず年齢を聞く。

 

「今年21っすね」

 

(しかも年下じゃねぇか…!)

 

ここで早くも気分が落ち込んでくる。

俺が大学の部室で男同士で延々とスマブラDXをやっていた時期を思い出した。

もちろん女性経験などあるはずもない。

 

「ごめんね~、呼び出しちゃって!」

「いや、俺も久しぶりに会いたいと思ってたんでちょうど良かったわ」

 

そこからは俺が完全に会話の外に出される。

話の断片から察するに、高校時代に付き合っていた間柄(もちろん”男女の”だ)らしい。

 

「ねぇ~? 仕事はどんな感じ?」

「今は貯金してるところ」

 

(高卒で働いてるのか……しっかりしてるな……)

 

「え~? いくらくらい貯まったの?」

「50万くらいかな?」

 

(……俺、負けてんじゃん!!)

 

 

落ち込む。

 

 

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「それで……」

 

しばらく二人の話を聞いていたら、ふいに俺の方を向く男。

 

「え?」

 

「こいつとはもう”ヤった”んですか?」

 

「!?」

 

「ちょっと! も~、そんなんじゃないから!」

「だって気になるだろ?」

「今は! ”そういうの” いらない感じだから!」


(え、やっぱそうなの?……)

 

そこからはシモのトークが開始。

 

「クリスマスにプレゼントも買わないで、ホテルでセックスだけするってどう思います?」

「いや、あの後買ってあげたじゃん!」

「当日じゃないでしょ! クリスマスって日が重要なの! 別の日にもらっても嬉しくもなんともない!」

「でもさぁ、あのネックレス高かったんだぞ?」

「でもじゃないでしょ!?」

「どう思います?」

「まあ……クリスマスは当日が重要って気もするね……」クリスマスに女の子と過ごしたことがないから、曖昧な返ししかできない俺。

「でしょ~~!?」

「あ~……悪かったよ」

 

ホテルでセックスしたこともない、クリスマスに誰かと一緒に過ごしたこともない。

そもそも彼女ができたことがない……。

 

虚しい。

 

そういう会話がしばらく続いた後。ダーツバーなんだからダーツしよう!という話になる。

 

元カレと俺の勝負。

 

「じゃあよーい、ドンっ!」

 

 

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負けた。

 

しかも2戦2敗である。

 

「結構簡単っすね」

「あ、ああ……」

 

 

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「もう2時かぁ~」と元カレ。

「あ~……、電車なくなっちゃったなぁ~」と女の子。

「そうだね」

 

俺はタクシーで帰るつもりだったので、二人にどうやって帰るのか聞いてみた。

 

「俺は車で帰ります」

 

そう、彼は最初からソフトドリンクしか飲んでいなかった。

「そっか」と言おうとした瞬間。

 

「え~、じゃあ乗せてってよ」

 

「!?」

 

女の子が言う。

 

「まあ……いいけど」

 

「!?」

 

男が答える。

 

 

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店を出て二人を見送る俺。

 

そのあとの二人に何があるのか、俺には知る由もない。

 

もちろん年長なので飲み代は俺が全て出した。

 

終電を過ぎた街は静かである。

 

俺は、薄くなった財布に帰りのタクシー代金があることを確認し、タクシープールまで歩き出した。