過ぎ去った日々を想う愚かさ

母親の作る料理がかなりマズかったのが判明したのは、俺が大学生になって間もなくの事だった。

高校生までは実家で暮らしていたので、普段の食事は母親が作っており、俺はそれを毎日食べていた。大学に入ってからは東京で一人暮らしを始めたので、自分の意思に関係なく自炊をする事になったのである。

大学の帰り。近所の駅前に西友があったので、そこで『マルちゃん焼きそば』と鶏肉、あとはキャベツとかの野菜を買って帰った。

鶏肉を細切れにしてフライパンで炒める。あとは一口サイズに切った野菜をバラバラ入れて、若干しんなりしてきたら麺を投入して少しの水を加える。水が無くなってきたら粉末ソースを絡めて出来上がり。

皿に盛りつけた、なんの変哲もない焼きそばを眺める。あまり美味しそうではないが、ソースの匂いは食欲を刺激するし、初めての自炊にしては上出来である。

買ったばかりの真新しい箸で、麺と野菜を丁度いい割合になるように摘み、口に運んだ。

 

モニュ……

 

「え?」

 

え?

 

「……」

 

旨すぎる。

 

正直、衝撃だった。

 

今まで母親の作った料理しか食べてこなかったから、食べ物の味を過小評価していたんだなって思った。

昔、白菜と肉を醤油で煮た料理を食べさせられた事があったけど、白菜のエグみが強すぎて、食べる度に吐きそうになっていたことを思い出した。しかも結構な頻度で出てきた。1ヶ月に4回くらい。

あれで白菜が嫌いになったので、今でも白菜を美味しく食べることができない。

というか、この焼きそば……。『自分で作った』という補正をかけたとしても旨すぎる。

 

あんまりだ……って思った。

 

悲しくなってきた。

 

あんまりだよ。

 

 

でも、母親の作ったもので、唯一好きだった料理もあったよな。

 

ニチレイの『本格炒め炒飯』を解凍したのがさ。

 

美味しかったんだよな。