人の未来

みなさんは『DVD-PG』という言葉をご存じですか?

 

DVD-PG……DVD Players Gameのことで、簡単に言うと、家庭用のDVDプレイヤーでプレイするゲームソフトです。

ご家庭に一台はあるDVDプレイヤーにディスクをセットすれば、ハイ、終わり。あとは映画を見るときのように、リモコンを操作すればゲームをプレイできます。

 

とはいえ、DVDプレイヤーのリモコンでゲームをプレイしなければいけないので、アクションゲームといったものには基本的に向きません。

 

では、そんな不自由しかない形態のゲームが、どんなジャンルと親和性が高いのか………

 

このブログを読んでいる皆さんには当然分かりますよね?

 

そう。

 

『18禁ゲーム』です。

 

 

――――――――――――

 

 

小学生の頃は「友達と遊ぶためのもの」だったテレビゲーム。

それが小学校高学年から中学生の頃にかけては、いつからか「ゲームをプレイするためにゲームをする」というように、俺の中での立ち位置が変わってしまっていた。

 

一緒にゲームをプレイをする友達とは疎遠(同じクラスにいるけど)になり、親から誕生日にプレイステーション2を買ってもらった時に、本体に同梱されていた1個のコントローラーから、さらに買い足すことはしなかった。

そして目を充血させながらゲームショップで真剣に選ぶゲームは、一人でもできる『ロールプレイングゲーム』ばかりになっていくのである。

 

山梨県の俺が住む地域には『ファミコンショップ桃太郎』(以下『桃太郎』)というゲームショップのフランチャイズ店舗があり、ゲームを買うときはいつもそこで買っていたし、ゲームが買えない時にも、その店内でウロウロしていた。つまり、いつもそこに居た。

『桃太郎』には、そこでのみ使えるポイントカードである『桃太郎カード』なるものがあり、ポイントが満点まで溜まると次の買い物が1,000円値引きになるという、お得な特典がある。

 

それは置いといて、ここで何が言いたいかというと、この『桃太郎』によって俺の人生が未来永劫、闇に閉ざされてしまったということである。

 

 

――――――――――――

 

 

「………」

 

俺はいつものように『桃太郎』の店舗の中で、最近やっとクリアした『シャドウハーツ2』の次にプレイするゲームを探していた。

 

俺を除いたら、店の中には20代後半くらいのロン毛の店員しかいない。

それもそうで、今日は平日、しかも昼間である。なぜそんな場所に俺がいるのか、というところは察して欲しい。

月に貰える小遣いの額が限られているので、俺の懐には、クリアしたばかりの『シャドウハーツ2』を売って得た1,000円ちょっとのお金と、既に持っていたお金を足した合計『3,000円』が入っていた。その範囲内で購入できるゲームを、なんとかかんとか探す必要がある。

俺はその当時ロールプレイングゲームばかりプレイしていたので、まずはそのジャンルが陳列されている棚から次のゲームを探すのだが、今回はどうにも食指が動くものが見つからない。

煮詰まってきたので、少し視点を変えてアクションゲームやシミュレーションゲームが並べられた棚にも目を移す。

 

(やっぱり、良さげなのがない……)

  

悩んでいた。

 

というのも、当時の俺は、ほとんど””勘””でプレイするゲームを決めていたから。

少ない小遣いの中から、最新のゲーム情報誌を購入する費用を捻出するには懐の負担が大きすぎるし、「このゲーム、面白かったぜ!」と言って薦めてくれる友達もいない。当時は「インターネットで検索する」という習慣も無かったので、完全に砂漠の中にある砂金を探している気分だった。

なので、もっぱら、ゲームを買うときは『表紙』と『裏表紙の内容説明』だけに頼るしかなかったのである。

当然だが、そんなことをしているとゲームを選ぶのには途方も無い時間がかかる。「買ったゲームがつまらなかったらどうする……?」という気持ちが強すぎるあまり、ゲームの表紙と裏表紙との”にらめっこ”を数時間繰り返してしまったことも、1回や2回じゃない。

なんにせよ、俺にとって買うゲームを選ぶことは『賭け』であり、『自分との勝負』なのだった。

 

そうやって店の中をウネウネしていたら、遂にはゲームコーナーの端の方まで来てしまった。

 

普段の俺だったら『もう一回、最初から棚を漁りなおすか……』となるところだが、今日は違った。

何故なら、いつもは気にならないものが目に入ってしまったからだ。

 

アレが。

 

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アレ

「………」

 

周囲を見回す。

 

俺が店に入ったときと同じで、客は誰一人としていなかった。

ロン毛の店員も、客が少ないことに気を抜いているのか、レジの内側にある椅子に座り、目を瞑って微動だにしない。

 

「………」

 

背中から汗が流れるのが分かった。

心臓が大量に血液を送り出すのも感じられる。

 

「………」

 

おじゃましまーす。

 

「ほほ……笑」

 

そこには、極彩色の世界が広がっていた。

プレイステーション2のソフトよりも一回り大きくて厚い箱に、アニメ絵の女の子が描かれたものが大量に陳列されている。

ゲームショップだからなのか、箱に描かれているのは二次元の可愛らしい女の子が多い。少し見渡すと、隅の方にブサイクな現実女性がレーズン色の乳首を晒しているDVDが、申し訳程度に置かれていた。

 

急に眩暈みたいなものが来た。

 

家に置いてある『地獄先生ぬ~べ~』で俺が甘勃起した、ちょっとエッチなお色気描写がお遊びみたいに思える。

 

「……」

 

圧倒されている場合ではない。

 

入ってしまったということは、『いずれ出なければいけない』ということである。

 

ここでの選択肢は2つ。

 

『何事もなかったように外に戻る』か『エッチなゲームソフト持って、何事もなかったように外に戻る』かである。

 

「………」

 

でも、それはほとんど意味を成さない選択肢だった。

俺は若かったし、それに、人並み以上の性欲もあったからだ。

 

 

―――――――――――

 

 

「2,980円です」

「ぁいっ…!」

 

無事に(無事ではない)、買う商品を手に取り魔境から出た俺は、周囲に誰もいないことを確認し「え? いつもこうやって買ってるけど?」みたいな顔でレジの前までやってきた。(と思う)

 

「あ、はい、に、に、にせんきゅうひゃくはちじゅうえんですね」

「はい」

 

なるべく店員と目を合わせないようにする。

早く会計を済ませて帰りたい……。

 

「あ」

「ぃっん!」

 

店員が急に声を発するから異常な反応を返してしまう俺。

 

「カードありますか? 桃太郎カード」

「あ、あ、あ、はい、あるます」

 

(なんだ、そんなことか……)

 

内心ほっとする俺。そうだ、後ろめたいことは何も無い。

ただ、少し箱のデカいゲームを買うだけなんだから。

 

財布から『桃太郎カード』を抜き出して渡す。

店員は特に表情を変えずにそれを受け取った。

今までに、何回も繰り返した仕草。

 

「………!」

 

ふと、俺はあることに気づいてしまった。

 

(年齢……!)

 

そう、『桃太郎カード』を作ったときに、住所・氏名・電話番号等に加えて、『年齢』を書かされたことを思い出したのだ。気づいた瞬間、自分の顔が勝手に真っ赤になっていくのを感じる。見えなくても。頭で。

 

「……?」

 

俺の狼狽に気づいたのか、店員は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「あ、大丈夫です」

「………」

 

何が””大丈夫””なのか、俺は自分でも分からなかった。一方店員は、それ以上何も聞かずにカードに印字されたバーコードを読み取る作業に戻っていた。

 

(いやいや、そんなの簡単に年齢の情報を見れるわけないから大丈夫だろ、そうそう、大丈夫……)

 

自分に言い聞かせる。

 

「はい、確認しました」

「……」

 

特に何も無く、俺の手元にカードが返ってくる。

 

(乗り越えた……)

 

後は、俺が出した3,000円が20円のお釣りになってお終い。

 

簡単だね。

 

「ありがとうございました~」

「……どうも」

 

レジ袋に入ったゲームを、汗がたっぷり滲み出た手で受け取り、踵を返す俺。

 

じゃあね。

 

「あ、ちょっと待って」

「え?」

 

店員に呼び止められる。

 

「……なんですか?」

 

聞き返す。

 

 

「今回だけだからね」

 

 

「え?」

 

 

 

―――――――――――

 

 

家に帰るとすぐ寝た。

家族が全員寝静まるまで、このゲームを開けることも、プレイすることもできないからである。

俺の部屋には鍵が無く、深夜にならなければ、無神経な誰かが入ってくる可能性を捨てきれない。

 

ちなみに、今回買ったゲームはコレ。

 

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ニャンニャンしちゃう!かまってほしいニャ DVD-PG

http://www.getchu.com/soft.phtml?id=20869


自分で調べてて懐かしくなってきた。

このゲーム、出てくる女の子は全員猫の耳と尻尾が付いているし、セックスの事を『にゃんにゃん』と言うし、女性器のことを『おみゃんこ』と言う。そんな決まりがあるらしく、エロゲーで卑猥な台詞に被さる『ピー音』が一切入っていない。

謎だ。

というか、神経を集中(?)させれば、『おみゃんこ』という言葉が『おま○こ』に聞こえないでもない。

どうでもいいか。

 

まあ、それでも女の子は可愛いし、ストーリーも当時の俺には刺さるものがあったみたいで、物語のエンディングでは感極まり、涙を流しながら放心状態になってしまった。(何で?)

それはそうと、このエロゲーの原画を描いている「さあぺんと」とかいう原画家さん、よくプレイステーションソフトの中古の棚で見る『マリオネットカンパニー』というゲームの原画も描いているらしい。

 

さて、エロゲーといえば通常はパソコンゲームだが、俺の家のパソコンは家族共用で、普段は父親が仕事で使っている。そのパソコンにエロゲーをインストールするのはさすがにリスクが大きい。

で、このゲームはというと、DVDプレイヤー……つまりはプレイステーション2でプレイできるのだ。DVD-PG。渡りに船である。

 

……

 

父親のひときわデカいイビキ声(無呼吸症候群なのでたまにイビキが止まる)が家中に響き始めた時間……。満を辞して俺は、プレイステーション2にゲームディスクを挿入する。

 

「………」

 

ディスクを読み取る音が静かな部屋に響くと。

 

「………」

 

 少し待ってゲームのタイトル画面が現れた。

 

「………」

 

 

 

そして。

 

 

 

人生が終わった。

 

 

 

END