透明な薬

「子供の頃って、今考えれば変なことにハマっていたりするよね」

 

それはその通りで、例えば『気に入った言葉を無限に繰り返す』『誰にでも指で浣腸したがる』『鼻くそを食べる』といった行動がそれである。

 

幼少期には誰しもが1つくらいは謎の行動を起こすし、そして俺の場合は『車の排気ガスの臭いを嗅ぐ』という行為が”それ”だった。

 

 

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保育園に通っていた頃、母親が毎日俺を送り迎えしてくれていた。

 

保育園に併設されている駐車場は、田舎だからか結構広く、送り迎えの時間になると、園児を輸送する車でごった返している。

ほどんどの園児が車で来ていた。否が応でも。

車が無ければ、田舎では保育園にも通うことができないのだ。

 

さて、車で送り迎えをされていると、どうしても『待ち時間』が発生する。

様々な要因で発生する待ち時間。

家から保育園までの道の混み具合、家事の都合、母親の怠惰など、複雑な要素が絡み合い……。

ともかく、母親が退園時間ピッタリに来るとは限らないのだ。

 

暇を持て余した俺は、待っているのももどかしく、駐車場で遊ぶことにする。

危険なので真似をしないで欲しいのだが、他人の迎えに来た車の下に、猫のように潜ったり、またのそりと這い出ては車の表面にベタベタと触ったりしていた。

そうこうしているうちに、その車の主達が園内から出て、駐車場へと向かってくる姿が見えた。

俺は見つからないように(子供はかくれんぼが好きなので)、車の後方にしゃがみ込み、息を潜める。大きめのミニバンなので隠れやすい。

幸い、彼らは車に乗り込むまで俺には気付かなかったようで、ブルルンとエンジンの音が聞こえてくる。

 

と、俺の顔に生暖かい空気が勢いよくぶつかる。

 

「!」

 

そう、目の前にあった車のマフラーの排気口から、排気ガスを吹きかけられたのだ。

 

「!!!!」

 

え?

 

「!!!!」

 

めっちゃ……

 

「!!!!」

 

めっちゃいい匂いだこれ!!

 

「スーー」

 

……

 

「ハーー」

 

すごい……。

 

鼻から入った大気の成分が、脳に直接浸透していくのがわかる。

 

「スーーーーーーーー」

 

……

 

「ハーーーーーーーー」

 

……キモチイイ……

 

「スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

……

 

「ッスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

………

 

「ッッスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

ブロロロロロロロロロロ……

 

「ハァッ………」

 

そうこうしているうちに、車は走り去っていった。

 

「……」

 

「なにやってんの?」

 

「!!!!」

 

母親だ。

 

「ッッッ……」

 

「ほら、そんなとこで遊んでないで、帰るよ!」

 

「……」

 

……

 

その後、母親の車に乗り込まずに、ずっと排気口から出る排気ガスを吸っていたので、思いっきり頭をブン殴られた。

 

そんなんだから、今現在バカになっちゃったのかもしれない。

 

 

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さっきふと思い出したから書いた。

 

まぁ、よく保育園の時のことを覚えてたな。

 

というかむしろ、保育園時代の唯一の思い出だわ、これ。

 

 

ハハッ。

 

 

 

じゃ。