行き止まり

新卒で当社に入社して、5年目の冬を迎えようとしていた。

 

サラダチキンとプロテインだけの夕飯を食べて、部屋でボーっと天井を眺めていたら、久しぶりにテレビが見たくなったので、ホコリを被ったリモコンを探し出して電源を入れてみた。

といっても特に見たい番組がなかったので、なんとなくニュース番組にチャンネルを合わせて、しばらく眺めてみる。

 

スポーツニュース、芸能ニュース……

 

ニュースを見ていると、本当に人間ばっかり出てくる。

世の中は本当に人間だけで回っているんだな、という感じがする。

 

それにしても……

 

若い。

 

名前も聞いたことないような芸能人、有名人。年齢を確認すると、俺より若い人ばかりだった。

 

昔は、テレビに出ている人たちは全員俺より年上だった。

 

いつからか、俺と変わらない年齢の人がチラホラ出てくるようになり、やがて半分は俺と同じか、俺よりも若い人になっていった。

 

いずれ今よりもっと、俺より若い人だけになるんだろうな。

 

もう、なにもかもやるには全部遅くなってしまった感じがする。

 

実家のコタツに入りながら、ボーっとテレビを見ていた頃。

あの時の、何も考えずにテレビを見て笑えていた頃は、テレビに映る人達の『誰にでもなれる』と思ってた。

 

頑張れば……、運がよければ……

 

何かのキッカケで、俺は誰にでもなれるはずだった。

 

誰にでもなれるはずだったんだよな。

「ほら、触ってみてくださいプロデューサー♪」

差し出された幸子の臓腑を恐る恐る手に取る。

(あたたかい…)

俺の手の中で、鮮やかなピンク色の腸がトクントクン脈打っている。

さっき食べた朝ごはんが、その内部で消化吸収されている。

紛れもなく、それは幸子の一部だった。

そう考えると愛しくなり、俺は幸子の腸をやさしく撫でた。

「あはっ!くすぐったいですよ!」

思わず身を捩る素振りが可愛すぎて、感極まった俺はつい両手に力を入れてしまった。

ギュム!

いきなり腸を握り潰され、幸子は小さな悲鳴を上げて立ったまま気を失った。

腸から押し出された中身が、幸子の脚の間からボタボタと床に撒き散らされた。

ニニンがシノブ伝とオエビの話

ニニンがシノブ伝Blu-ray BOXを買いました。

 

Blu-ray BOX自体の発売は2015年なのですが、アニメ自体は『2004年作品』って書いてあった。もう14年も前の話なんですね。そりゃ俺も歳を取るわけだよ。

 

なんか色々思い出してきたから、それを書いていきます。

 

これを読んでる人はあんまり興味ないと思うけど。

 

――――――――

 

ニニンがシノブ伝』の原作自体は、『月刊コミック電撃大王』の2000年8月号~2006年3月号まで連載されていたらしい(wikipedia調べ)。

記憶によると、俺が2巻を買ってしばらくしてから3巻が発売されたという頃に読み始めたので、コミック2巻から3巻が発売されるまでの2003年~2004年頃に購読していたことになりますね(wikipedia調べ)。

 

……当時の話、中学3年生か高校生だった俺は『本屋で漫画を表紙買いする』ことにハマっていました。

 

なぜ学生の分際で、そんな金のかかる事ができたのか。

それは、親がなぜか大量に所持していた『図書カード』を貰ったことが一番の要因でした。

図書カードは、絵柄も値段もさまざま。500円や1000円、中には3000円のものまでありました。それが何十枚も自分の懐に入っているとなれば、10代そこらの学生として、やることはひとつ。1にも2にも漫画です。

 

その時に表紙買いをしたのが、ニニンがシノブ伝でした。

 

同じ時期に、いわさきまさかずの『ポポ缶』とか『よつばと!』とかを買ってた記憶があります。なぜジャンプでもなくマガジンでもなくサンデーでもチャンピオンでもなく、全部電撃コミックスなのかというと、それは俺がキモいオタクだからです。

とはいえポポ缶は正直めちゃくちゃ好きなので、みなさんも読んでみてください。面白いかどうかは保証しません。

 

そんなこんなでニニンがシノブ伝を読み始めたのですが……、今の今までギャグマンガといえば、月刊コロコロコミックに載っていた、沢田ユキオの『スーパーマリオくん』とか、河合じゅんじの『ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん』くらいしか知らなかった漫画素人の俺は、このニニンがシノブ伝にメチャクチャな衝撃を受けました。

 

「こんなギャグマンガもあるんだなぁ~……」

という感じで。

 

方向としては『ナンセンス』というのは前述のスーパーマリオくんと同じようなものなんですが(同じか?)、やっぱりそこは青年向けの漫画ということで、笑わせ方がちょっと違うような気がします。

その方向が、当時の俺にピッタリとハマってしまったわけです。

 

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↑ ↑

特にこういうのが好き。

 

正直言って、本筋の話よりもこんな感じでちょくちょく挟まってくる関係の無い話が面白いんですよね。

 

で、この漫画は月刊誌に載っているので、次の巻が出るのがすごく遅いんですよね。単行本だけ追おうとしても、次が出るまでに1年も待たなきゃいけない。

 

そういうわけで、原作が載っている、『月刊コミック電撃大王』も毎月買おうと決心します。

 

当時の電撃大王には、確か林屋志弦の『はやて×ブレード』とか、井原裕士の『超常起動サイレーン』とかが載ってたと思う。ニニンがシノブ伝以外の漫画にあまり興味がなかったので、エロいシーンが多いような漫画の、エロいシーンだけ見てチンチンを硬くするのに使っていた気がします。特に、上山徹郎の『隻眼獣ミツヨシ』は、積極的に俺のチンチンを硬くしてくれました。

 

そうやって電撃大王を買ってブヒブヒ笑っているうち、俺は雑誌内の広告に気になるものを見つけます。

 

ニニンがシノブ伝がアニメ化決定!】

 

ドラマCDが存在しているのは知っていましたが、アニメ化もするという事実に驚く俺。

「絶対に見るぞぉ~~~」と意気込んでいたのですが、放送局を見たところ、俺が住んでいる山梨県での放送予定は一切なし。

 

ここ山梨県は、ケーブルテレビの普及率がかなり高く、それはなぜかというと、ケーブルテレビに加入しなければそもそも見れるテレビのチャンネル数がかなり制限されるからです。他の家庭はそういった事情でかなりの確率でケーブルテレビに契約していたのですが、俺の家はそうじゃなかったんです。

ケーブルテレビにさえ加入すれば、俺の家でもニニンがシノブ伝を放送するチャンネルが見れるらしいので、親にそれとなく(アニメを見るためとは言わずに)話を振ってみたのですが、当然ながら一切取り合ってもくれず……。

 

結局、アニメ化したニニンがシノブ伝を見ることはなく、枕を涙で濡らす夜を過ごすこととなりました。

 

そうこうしているうちに月日は過ぎ、最終巻である4巻も発売され、俺の電撃大王購読も、山梨の辺境でひっそりと終わりを迎えたのです……。

 

――――――

 

それはそうと、ニニンがシノブ伝連載当時はインターネット上にファンサイトもいくつかありました。

 

その中でも俺はよく、【ディディンがゲノム伝】というファンサイトを見に行っていました。といっても、これはニニンがシノブ伝限定のファンサイトではなく、作者である古賀亮一作品のファンサイトなのですが、連載~アニメ放映当時はその人気があってか、ニニンがシノブ伝の話題が多かったように感じます。

 

そしてファンサイトといえば、当然の摂理として、【お絵かき掲示板(お絵かきBBS)】が設置されているわけです。しぃペインターとかそういうのが。

 

このディディンがゲノム伝のサイト管理者は、かなり絵が上手く、自身もよくお絵かき掲示板に絵を投稿していたのですが、その絵を何枚か見ているうちに、俺の中に芽生えた感情があります。

 

(俺も、こんな感じの絵が描きたいなぁ~~……)

 

という感情です。

 

そんな感じで一念発起した俺は、今まで貯めていたお金を片手に電器屋へと走り、当時WACOMから発売されていたペンタブレット【CTE-430】を購入しました。確か7000円~8000円くらいだったと思います。

 

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↑↑

これです。俺が所持している現物なので、手首が当たる部分の塗装がハゲています。懐かしいですね。

 

このペンタブレットを片手に、ニニンがシノブ伝のキャラ絵を描き始めることにしました。

 

といっても、自宅のパソコンは家族共用のもので、昼間は親に目をつけられて「気持ち悪い事をするな!」と言われるのが怖く、描くことができません……。

そこで俺は、家族が全員寝静まった夜中の12時頃になってからカサカサと布団から抜け出し、小さいデスクライトで手元を照らしながらパソコン上に描くという、見つかったら一発アウトな手段で絵を練習していました。

共用パソコンが置いてある部屋に冷暖房は無く、冬はチャンチャンコの上にジャンパーを羽織り、靴下を重ね穿きした状態で耐えていました。手袋をすると線がちゃんと引けないので素手のままペンを持ち、限界まで指先が冷たくなったら、椅子と尻の間に指を突っ込んで暖め、少し回復したらまたペンを握るという動作を繰り返していました。

 

当時のお絵かき掲示板には、作品を投稿せずに途中保存をする機能がなかった(ハズ)ので、どうしても途中までしか描けなかったら、まず一番上のレイヤーを単色で塗りつぶし、消しゴムで【とちゅう】などと文字描いて、一旦掲示板に投稿する方法が一般的だったような気がします。気のせいかもしれませんが。

 

そうやって初めて完成させた絵は、お世辞にも上手いものではありませんでしたが、投稿したら「いいですね」とか(こっちはお世辞で)返事が貰えたので、次の絵を描く励みになりました。

 

この当時の方が、絵に対して真摯に向き合っていた気がしますね。

 

今はもうダメです。

 

――――――――

 

そんなことを、Blu-ray BOXを買ったら思い出しました。

 

アニメは大学生になってからようやくDVDで見れたし、ファンサイトの【ディディンがゲノム伝】は、いつ閉鎖したのか分からないですが、もう跡形もなくなりました。

俺はというと、まぁまだニニンがシノブ伝という作品が好きなので、それもこれも良い思い出ですね。

 

では。

 

 

 

おわり

 

 

 

アニメ「ニニンがシノブ伝」Blu-ray BOX
 せっかくなので、Amazonのリンクも貼っておきます。

バカ

今使ってる『こたつ』がめちゃくちゃ熱い。

中にヒーターの強さを調節出来るツマミがあるけど、これを最弱にしてもまだ熱い。このままだと火傷する。

あまりにも熱いから、本当はツマミを逆に回してたんじゃないか、最弱だと思っていた方向が実は最強の方向だったんじゃないか、って思って反対に回したらもっと熱い。

死ぬ。

この最強状態の熱さは一体どんな人間が使うことを想定して作られてるんだよ。

自殺用かな?

でも熱いからって電源切ったら今度は寒い。

 

どうすればいいんだよ。

食事

職場の人の話を聞いていると、全員『食』に対してなにかしらの拘りを持っているみたいだった。

 

職場の人が出張から帰って来たりすると、「仕事帰りにどこそこのメシ屋で何々を食べたけど、アレは旨かった」とか、ある時、俺が夕飯にラーメンを食べたと言ったら「ラーメン屋といえば、バイパス沿いにあるあの店のラーメンがここら辺では一番旨いんだよな」とか、職場の人同士が談笑しているのを盗み聞きしたら「いや~、ちょっと探索して見つけた居酒屋で○○を食べたんだけど、あれは失敗だったわ」とか、全員が全員そういう話をしている。

 

俺が出張に行って、その地方の名物を何も食べていないと分かったら「お前、あそこに行ってアレを食べないなんておかしくないか? 何の為に出張に行ってるんだよ!」って怒られる。俺は仕事をしに行っているのであって、メシを食べに行っているわけではない。

 

どうしてあんな風に、みんな『食』に対して貪欲になれるのだろう。答えが見つからない。美味しい物を食べても、明日からの仕事が楽になるわけでも、楽しくなるわけでもない。いや、というか、そもそもこういう考えがいけないのか。美味しい食事を摂れば、人生が豊かになるのだろうか。

 

それとも『食事の話題』が、社会人に最低限必要な『知識』なのだろうか。小学生にポケットモンスターの話題を振るような、そういった普遍的な話題なのか。

 

この前も別府に出張で行くことになったけど、食事は全て『ガスト』で済ませた。でも俺は『ガスト』の料理は、下手なメシ屋よりも旨いと思う。

 

これじゃダメなのか?

 

出張じゃない日は、大体サイゼリヤでメシを食べてる。

サイゼリヤはあんまり旨くないけど。

 

なにも分からなくなってきた。

エッチなお風呂屋さん

セックスに対して異様な執着を示していた頃……。

俺は相も変わらず小倉のソープに通い詰めていた。

 

今日はあの店、明日はあの店……といった具合で、どの店が1番『良い思い』が出来るのか、とにかく手当たり次第に探っていた。

 

ある時は奥から急に婆さん(40代後半くらい)が出てきて、ドリルフェラチオ(めちゃくちゃ気持ち良かった)の後のセックスでカンジダをうつされたかして、チンチンが異常に痒くなったり、またある時は、若い女の子と時間いっぱいまでベッドに座りながら、ただ会話をして終わりだった。

 

それでも辞められなかった。

 

財布からはどんどんお金が無くなっていく。だが、それが特に問題だとは感じなかった。

なぜなら、他にお金を使う場面が無いから……。

一緒に遊ぶ友達もいないから。

 

そんなソープ通いも、大半が失敗なのだが(『全て』フリーや写真指名で入るからだろうが……)、たまにはこんなこともあった……。

 

こんなことが……。

  

―――――――――――――――

 

 

俺は仕事終わりでひたすら疲れていた。

 

今日の仕事は、重たい機材を持って、階段を数十回上り降りするという作業だった。

月に一度はこんな日がある。

ふと手を見ると、親指の爪が欠けていた。自分では気づかなかったが、血が出た痕もあり、そのまま固まっている。機材を持った時に何かに引っかけたのだろうか。作業手袋をするのを忘れたから? 素手で運搬作業をすると、よく欠ける。

 

それをボーッと眺めていたら、憂鬱になってきた。

 

歩を進める。

 

気付いたら風俗特有の、嫌な感じに明るい光が目の前にあった。

 

「どうも、いらっしゃいませ~」

「……」

 

真っ黒なスーツを着込んだ初老の白髪男性が、柔らかい声で俺を出迎える。お辞儀だけを交わす。

 

「ご予約の方ですか?」

「いえ……」

「では、ここで写真を選びますか?」

「はい……」

俺は聞き取れるか聞き取れないか、ギリギリのラインの小さな声を絞り出す。

風俗に来ると、なぜか後ろめたい気持ちに襲われる。

なにか悪いことをしたような気持ちになる。

 

「じゃあ……」男性は、カウンターの下から手慣れた動作で写真を取り出し、俺の目の前に並べる。「今すぐなら、この子達ですね」

 

写真は4枚。顔がぼやけているのでハッキリとは分からない。

どの女の子も、モザイク越しにはキレイな顔に感じる。

しかし、こういった写真で『本人』の容姿はほとんど計ることができない。モザイクのその先にある顔だって、修整されているはずだ。

俺は努めて『本当』を見つけようとする。そうやって延々と写真と睨めっこしていたら、男性の方が痺れを切らしたのか、声をかけてきた。

 

「もしよろしかったら『どんな子』がいいか、お申し付けください。それに近い子をお選びしますから……」

 

『どんな子』……。

 

正直言って分からなかった。

 

俺はこれまでの人生で、『こういう女の子が好き』という概念を、一度も持ったことがなかったからである。

これまでオナニーのほとんどを、二次元の女の子で行っていたものだから、所謂『現実の女性』に対してどういう感情を抱けばいいのか分からなかった。

大学では男子100%のサークルに所属していた。

そんな環境では、女の子がどのような顔をしているのか、どのような仕草をするのか想像できない。

テレビに映る女性は、テレビに出るだけあって全員が整った顔をしてるので、その気になれば誰でも射精できそうだった。

だから、どのような女の子が『俺にとって良い』のか、分からなかった。

 

「……」

押し黙る俺。

 

「たとえば『サービスがいい』とか『細めがいい』とか『優しい子』とか、何かあればお聞きしますが……」

「……」

「どうでしょう」

 

「……優しい子で」

 

「分かりました……、じゃあ、この子ですね」

 

真ん中の写真を指差す。プロフィールがあったのでそれに目を通した。

年齢は24歳。B89・W60・H87……。

この『W60』というのが曲者で、風俗嬢の『W59』と『W60』に天と地ほどの差がある。

大抵の風俗嬢のプロフィールには何かしらの『偽り』があるのだが、この『ウエストサイズ』が一番顕著だと思う(俺はね……)。

W60というのは、数値以上の迫力をもって、直視せざるを得ない『現実』として眼の前に突き付けられてくるものなのだ。

もちろん例外はあるが……。

 

そんなことを考えていたら、店の方では着々と準備が進んでいた。

俺は待合席の灰皿に、先ほどつけたタバコの灰を落とす。

俺以外に順番待ちをしている人間はいなかった。自分のタバコの副流煙を、深呼吸で肺に取り込む。

若干だが、緊張がほぐれてきた。

 

「〇〇様、用意ができましたのでこちらにお越しください。」

 

先ほど受付してくれた男性とは違った、また別の男性から声をかけられる。恰幅のいい短髪黒髪の男性だった。

俺は平静を装って返事をする。先ほどほぐれたはずだった緊張が、また頂点に達していた。女の子と対面する前はいつもこうなってしまう。女性に免疫が無いからなのか……。

緊張で手と足が同時に出そうになりながら、カーテンの前まで歩く。

 

「それでは、お楽しみください」

 

 

――――――――――――――― 

 

 

カーテンの向こうにいた女性は、笑顔で俺を出迎えた。

 

「よろしくお願いしますね~♪」

 

見た目では年齢は分かりづらかった。24歳と言えばそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、目はパッチリとしているし、顔立ちも整っていた。

 

ネグリジェのような少し透けているレースの服を着ていて、パッと見、体形の判別はできなかった。

 

「こちらへどうぞ~」

「あ、はい」

 

女の子に案内され、個室に入ったらに入ったらまず飲み物を選ぶように言われたので、「ウーロン茶」と答える。落ち着いてきたところで、女の子から「大きいバッグ持ってるんですね~仕事帰りですか?」 みたいな会話のジャブが繰り返される。

この『ジャブ』が異常に長い女の子もいるのだが(これだけで制限時間いっぱいまで使われてしまう場合もある……)、今回の女の子は、自ら進んで俺の服を脱がす行為を始めた。

……俺は自分の意志がほとんどないので、女の子の方から切り出してくれないといつまで経っても会話し続ける羽目になる。

こんな時でも『いきなりセックスをしようとする性欲の塊みたいに見られたら嫌だなぁ……』という理性が働いてしまうからである。

そもそもソープに来ている時点で、なにもかも、というか、全てが矛盾しているのだが……。

 

「私、昼は介護の仕事をしてるんで、こういう、服を脱がしたりするのには慣れてるんですよね~」

 

そう言いながら、慣れた手つきで俺の服を脱がしては畳み、脱がしては畳み……。

そして俺をパンツ一丁になるまで剥くと、女の子がおもむろにタオルを股間に被せてくる。

「……脱がしますね」

タオルの中でモゾモゾと動いていく女の子の手。

俺はこの瞬間がめちゃくちゃ興奮する。

『女の子が俺のパンツを、自分の意思で脱がせている!!』

という、この事実が、とてもとても凄いことのように感じる。

普通あり得るか? こんなこと……

 

「じゃあ、私も脱がせてもらえますか?」

「……」

 

俺がボーッとしている間に、女の子はネグリジェみたいな服を脱ぎ、下着姿になっていた。

露わになった身体を眺める。

少し腹回りや身体のあちこちに、ムチムチとした肉が付いていたが、太っているというわけでもない、むしろいい感じのバランスで成り立っている。

 

「私の身体、どうですか…? ちょっと太ってますよね……」

「い、いや、いいんじゃないですかね……。抱き心地、良さそうだし……」

俺の口から、思ったままの気持ち悪い表現が飛び出す。

「ふふ…本当ですか?」

 反面、女の子は嬉しそうである。

もちろん、営業スマイルなのかもしれないので、過剰に反応するのは止めておいた。

 

こんなところで、女の子が『本当に』笑うはずないんだから……。

 

 

――――――――

 

 

「熱くないですか~?」

 

なにか嬉しそうな声で女の子が尋ねる。俺が「大丈夫……」と蚊みたいな小さい声で返事すると、女の子はそのままお湯で俺の身体を濡らした。

 

あまり見ないようにしていたのだが、やはり近くに女の子の『実体の裸』があると、本能に逆らうのは至難の業で、どうしても目がそちらを向いてしまう。XVIDEOSで見るのとは違う、質量を持った存在が、俺の童貞気質な精神を刺激するのである。

 

女の子は俺の視線に特に反応せず、白い桶に少量のローションを垂らし、その上からボディソープを大量に注いでいる。

 

「……あ、あの、最初にローションを垂らすのって、なんか意味があるんですかね……? 他のお店でもそうだったから……」

 

俺は意識を逸らすために、適当に質問してみる。

 

「これですか……? あのですね、ローションを最初に入れておくと、めちゃくちゃ石鹸の泡立ちが良くなるんですよ………ほら!」

 

そういって女の子は作った泡を両手にかき集め、俺の眼の前に掲げてみせる。

 

「ほぉ~……」

 

確かに、CMでしか見たことがないような、ソフトクリームのような泡が立っていた。素直に驚く。

それから女の子は「へへへ……」と笑いながら、俺の全身をくまなく泡で被い、丁寧に洗っていった。

 

「じゃあ、お風呂に入ってください」

 

身体を綺麗にしてもらった後は(実際には猫背気味の汚い男がいるだけなのだが……)、すでにお湯が張ってある湯船に誘導される。

足をつけると、少し熱めの温度だった。俺は「ィ~~~~……」という鳴き声を上げながら湯に浸かる。

 

天井のシミを数えていると、

 

「失礼しま~~す」

 

と言うが早いか、女の子が俺の股の間にスポンと入ってきた。

 

「オッ…」と俺が言うなり、女の子は笑顔で俺の手を自分の胸に誘導する。

されるがままに、大きめの柔らかい胸に、俺の手のひらが触れた。

 

「おっぱい、好きですか……?」

 

振り向きざまに俺の顔を見ながら、女の子は質問してくる。

 

「う、は、はい……」

と、俺は手を硬直させたまま答える。

 

同意の上だし、ここはそういう店なのだから、自分の好きなように女の子の胸を揉めばいいのだろうが、ここでも俺の中の童貞気質が邪魔をしてくる。

『ここで揉んだら、お前は性犯罪者なんだぞ』

……そう自分の頭の中に響いてくるような気がした。アホか……?

 

といっても、動かない石像になっているのも不自然だと思い、指先だけをモゾモゾと動かす。

 

「うふふ……」

 

女の子は特に何も言わず、笑っているだけだった。

 

――――――――

 

「ベッドに座って待っててくださいね~」

 

風呂から上がった後、女の子に体を拭かれた俺は、そのままベッドに腰掛けた。

俺の身体を拭いたバスタオルで、女の子はそのまま自分の身体を拭いている。

 

「……」

 

風呂側を向いているので、俺に背を向けている状態だ。

まじまじを身体を観察できるチャンスである。

 

肩幅は若干広い気がしたが、男に比べればやはり小さい。そこから下に視線を降ろしていくと、腰から尻にかけてのラインは滑らかで、綺麗な曲線を描いていた。男とは違って、この身体が『女の子のものである』と主張しているようだった。

 

「……今日は、どんなプレイをします?」

 

女の子はいつの間にか俺の方を向いていた。

俺は、『風邪で学校を休んだのにも関わらず、自室でテレビゲームをしているところを母親に見つかった子供』のような気分になる。

つまり、気まずかった。

 

「プ、プレイ……ですか」

 

俺は努めて平静を装って返事をする。

 

「はい……例えばぁ~……恋人みたいにイチャイチャするとか……、ちょっと乱暴な感じでエッチするとか……あとは……痴漢プレイとか!?」

 

「痴漢プレイ……?」

 

今まで風俗に通っていて、そんな選択肢を迫られた事なんて、もちろん無い。俺が不思議そうな顔をしていると、女の子は笑顔で説明してくる。

 

「……こうやってぇ~、私が電車に乗っているような感じで立ちますよね? そしたらこう、こういう感じで、お尻を触ったりおっぱいを触ったりして、後はそのままエッチしちゃうみたいな感じで……ふふ」

 

女の子は大仰にジェスチャーを交えながら、痴漢プレイの手順を解説する。

 

説明を聞き終えた俺は……

 

「……ふ、普通にイ、イチャイチャする感じで……」

 

そこまでする覚悟はなかった。

 

「え~~~~……はい」

 

女の子は露骨に残念そうな顔をする。

そんなに痴漢プレイがしたいのか……? 

 

「う~ん、じゃ……寝転がってくださいね~~~」

 

俺にピッタリと密着するようにベッドに腰掛けた女の子は、俺の背中を両腕で抱えるようにして押し倒す。俺の腕に胸や腰が当たって柔らかい。

 

「あ、そうだ、このままぎゅ~~ってしましょうね」

 

そう言うと女の子は、寝転がった俺の体を強く抱きしめてきた。

 

(うお……)

 

風呂上がりで、少し汗ばんだ肌が触れ合っている。嫌な感じはなく、むしろずっとこうして密着していたい気分にさせられる。

 

「○○さんも、ぎゅ~~~ってしてください……」

「えっ」

 

そう言うが早いか、女の子は、俺の腕を自分の腰に添える。女の子の腰は少し冷えていて、俺の手のひらの体温が伝わると、汗でしっとりと濡れてくる。

 

「ほら……」

「は、はい」

 

促され、そのまま腰に添えられた腕に力を入れる。

 

「恋人みたいな感じでしょ……?」

「いや……あの、よく分かんないです……」

 

素直に「はい」とか言えばいいのに、なぜかバカ正直に感想を述べてしまう。バカか?

 

「え~~~……?」

 

女の子は少し不服そうにしながらも、俺の肩に回した手を少しづつ下にスライドさせていく。

 

腰……尻……横腹……そして、股間に到着する。

 

「オ」

 

俺の鳴き声。

 

女の子は笑顔だった。

 

――――――――

 

「……そろそろいいかな~」

 

女の子が俺の股間から顔を上げる。

チンチンを舐められていたのである。

 

「……」

 

固まる俺を尻目に、女の子は笑顔を崩さず、ベッドボードの上に置いてあるゴムを手に取り、封を切る。中身を取り出すと、そのまま口に咥える。

 

「ひゃあ、ひゅけまひゅね~~」

 

ゴムを咥えたまま喋ると、俺のチンチンにキスをした。

 

「ホッ」

 

俺は少し腰が引けてしまうが、女の子はそのままゆっくりと頭を降ろす。チンチンが温泉に浸かったように、じんわりと温もってくる。

 

「……ン……はぁ……」

 

女の子が口を離すと、そこには『セックスする準備の出来たペ●ス』がいた。

 

「……んふ」

 

『セックスする準備の出来たペ●ス』に手を添えたまま、俺の上に跨る女の子。

そのままじわじわと腰を落とす。

だんだんとその姿が、見えなくなっていく。

 

「ン……ンン……ン~~~~~~~~~~~~~」

 

何かを我慢しているような声を上げる女の子。

 

「~~~~~~~~」

 

そのまま声にならないような声に変わったかと思うと、俺のアレが完全に飲み込まれてしまった。

 

「はぁ……動くね……」

 

女の子は俺の上で、少しづつ強弱をつけながら跳ねていく。

 

そんなこんなしている最中、女の子は終始笑顔だったのだが、俺はというとゴムを付けられる時点からずっと無表情である。

気持ち良くないという訳ではなく、女の子のこういう行動にどういった反応を見せたらいいのか、正解が分からないからである。

女の子が頑張って俺を気持ち良くさせようとしている所を、どういう顔で眺めていたらいいのだろう。

 

多分、一生分からない。

 

「はぁ……ねぇ……今度は上になってくれる……?」

 

女の子は、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。

『上になる』とは、つまり『正常位』である。

 

「……う、うん」

 

言って俺が起き上がるのと入れ替わりで、女の子はベッドに寝そべる。

 

「え~~~~~と……」

「そこじゃなくて……もうちょっと上……」

 

女の子にアレをあてがっているのだが、女の子のアレの入り口がどこなのか必死に探す。

毎回そうなのだが、『こういった経験』が少ないので、未だに女の子の入り口がハッキリとつかめない。

以前、別の店で女の子の尻の穴に入れそうになって「違うって!!」と、かなり強めに殴られたことがあった。

 

「ンン……」

 

今回はちゃんと入ったらしい。

 

「じゃあ動きますよ……」

 

いちいち聞かなくてもいいことを聞きながら、モゾモゾと動き出す俺。

それに合わせて女の子の息が荒くなってきた。

 

「だ、大丈夫ですか……? 俺が動いても痛くないですか……?」

 

聞かなくてもいいことを聞きながら、俺は腰を動かす。

女の子は瞑っていた目を少しずつ開き、俺を見つめてきた。

 

すると、

 

「大丈夫……。男の人が気持ちいいって思うように動いたら、女の子も気持ちいいんだよ……」

 

と、優しく囁く。

 

「……」

 

本当なのか嘘なのか分からなかった。

 

――――――――

 

「お疲れ様~~~」

 

なんやかんやを済ませた後、俺と女の子は並んでベッドに座っている。

俺は女の子から受け取った250mlの緑茶の缶に口をつけた。乾いた喉と熱くなった身体の中を、冷たい液体が滑り降りていくのを感じる。

 

「ね、気持ち良かった?」

 

女の子は笑顔で俺に尋ねる。

 

「は、はい……ありがとうございます……色々と……」

 

なにか、恥ずかしい気持ちが拭いきれなくて、かしこまった言葉遣いになってしまう。

 

「もうすぐ時間になっちゃうね~」

 

時計を見ながら、女の子は言う。

 

「……」

 

俺を無言で女の子を見つめる。

 

「あ、じゃあさ、今度来たら……」

 

俺の方を振り向いて。

 

 

「……痴漢プレイ、しようね~!」

 

 

……。

 

 

あ、

 

 

よっぽどやりたかったんだろうな……。

 

 

 

 

※おわり※